これだけは知っておこう
はじめまして。こうなんクリニック副院長の橋本と申します。
私は医師として15年目、在宅医療に携わるようになって3年目になります(2019年時点)。
みなさんは入院して療養中の家族が家に帰りたいと言ったとき「じゃあ帰ろう」と言ってあげられますか?
大切な家族の希望なら、叶えてあげたいけれど…
「今の家の設備で生活できるかな・・・」
「緊急の場合どうしたらいいの・・・?」
「同居している家族はどう思うかな・・・」
「今までの生活はどうなっちゃうんだろう・・・」
心配なことが次々と浮かんできますよね。
自分たちの生活に大きく関わることなので当然です。
心配事がたくさんある理由のひとつに
『どうしていいか分からないから不安』ということがあります。
それはつまり『知れば大丈夫』だということです。
厚生労働省の平成26年受療行動調査で「自宅で療養できない」と回答した人が自宅療養を可能にする条件のトップ3は、
- 入浴や食事などの介護が受けられるサービス
- 家族の協力
- 療養に必要な用具(車いす、ベッドなど)
でした。
「自宅で療養できない」と回答した人の多くは、在宅医療向けのサービスにどんなものがあるか知らなかったり、どこに相談すればよいか分からなかったりするのではないかと思います。
在宅医療向けのサービスや制度は、おそらくみなさんが思っている以上に整備・提供されています。
診療、看護、リハビリや入浴も訪問してもらえるし、自宅をバリアフリーにする費用の補助、ベッドや車いすのレンタルサービスなどもあります。
これらを知っていて利用すれば、心配事が減らせますね。
内閣府のアンケートでは、男女問わず
と思っている 介護保険制度に関する世論調査
(平成22年9月)
と思っている 高齢者の健康に関する意識調査
(平成24年度)
という調査結果が出ています。
つまり、在宅医療はとても身近にありえることなのです。
それから、どれくらいお金がかかるか?も気になるところですよね。
在宅医療は費用が高くつくのではないかと心配されているのではないでしょうか。
在宅での療養をサポートする制度には、介護保険など様々なものがあります。
それらをうまく利用することで、費用を軽減することができます。
介護する側もされる側も、できるだけ気持ちよく生活を送れるよう、
在宅医療についての知識を増やしておきましょう。
1.在宅医療ってなに?
自宅に医師が来てくれる医療
在宅医療とは、通院が困難で自宅での療養を希望する患者さんのために、患者さんの自宅などに訪問して診療を行うことです。
「在宅」とは自宅はもちろん、老人ホームや高齢者住宅も含まれます。
患者さんにとっては通院の負担が減ったり、自宅という自由で安らげる環境に居られることがメリットです。
デメリットは緊急時に病院のように高度な画像検査や手術がすぐに出来ないことです。
医師が患者さんのところに訪問して治療を行うのですが、
どれくらいの頻度で訪問できるかというと
基本的には月2回(隔週)のところが多いです。
このように定期的に訪問して診療を行うことを「訪問診療」と言います。
患者さんの状態が急変したり緊急に診てもらいたいことがあった場合、
患者さんからの要請で医師や看護師が駆けつけることを「往診」と言います。
24時間365日対応のクリニックも多くあります。
病院に入院している場合と同じように、困ったときにはお医者さんや看護師さんが来てくれる環境ならば、自宅にいても安心ですね。
しかし、自宅での診療よりも、日々の生活を不安に思う人の方が多いのではないでしょうか?
家族はどうやって生活すればいいの?
在宅医療を始めて介護することになったけれど、、、
「今まで介護なんてしたことがないからどうやっていいのか分からない・・・」
「本人の健康を保てるかな、満足してもらえるかな?・・・」
「すごく大変そうだから介護する側の時間がなくなって疲れてしまいそう・・・」
不安ですよね。
今までの日常生活になかった仕事が増えるのは事実です。
けれど、これを読まれている方は、
「自宅にいたいという本人の望みを叶えてあげたいから頑張りたい」
という気持ちがありますよね。
在宅医療をサポートするサービスはたくさんあります。
まずは、退院が決まったとき。
退院サポート
病院で行っていた医療を、在宅医療に変わっても続けられるように医師、看護師、在宅医療に関わるスタッフと家族で打ち合わせを行います。
そこで、日々の介護の方法を説明したり、訪問診療や訪問看護の日程を調整します。
在宅生活をスムーズに行えるように、ご家族の状況も考えた在宅医療プランを用意してくれますので、納得できるまでしっかり相談しましょう。
在宅医療プランに納得し、在宅医療の生活を始めてみたら、
説明は受けたけど介護のやり方に不安が残る、入浴や食事の介助がうまくできなかったなど、やってみて分かる困ったことも出てくるかもしれません。
そういうときは「訪問看護」を利用すると良いでしょう。
訪問看護
看護師が訪問して、医療・介護の両方から日常生活をサポートします。
病状の観察、薬の管理、入浴や食事の介助、排泄介助、介護の助言など、幅広く対応してもらえます。
希望される場合は看取りまでサポートしてくれます。
他にも医師には相談しにくい悩みを聞いてくれたり、ときには雑談に乗ってくれたり・・・看護師さんはとても心強い存在なんです!
日常生活での介護の心配を相談するところはできたし、サポートもしてくれる。
でも、もっと介護しやすい環境にできないか、在宅だと筋力の衰えが気になると思われたら、「訪問リハビリ」があります。
訪問リハビリ
理学療法士、作業療法士などが訪問して、医師の指示に基づいて、患者さんが日常生活で自立できるように治療、訓練を行います。
介助方法の指導をしたり、手すりの設置や、介護用ベッドや車いすなどの福祉用具の相談にも対応します。
これで自宅環境の悩みも解決できそうですね。
介護は毎日のこと、たまには自由時間が欲しい!
どうしても外出しないといけない日もある。
そんなときは、「ショートステイ」や「介護ヘルパー」に頼るものいいと思います。
「訪問看護」「訪問リハビリ」、いずれにしても医師の指示が必要です。
在宅医療だからと頑張りすぎず、早めに医師や看護師に相談してくださいね。
その他のサービスも病院で紹介してもらえる場合があります。
直接は紹介できなくても、ケアマネジャーを紹介したり、どこに相談しに行けばよいかは教えてくれると思います。
2.在宅医療にかかる費用は?
初めての在宅医療となると、
「どれだけ費用がかかるのだろう?」
「高くつくのではないかしら?」
と、お金の心配が出てくることと思います。
ここでは在宅医療にかかるお金について説明します。
在宅医療にかかるお金には、大きく以下のようなものがあります。
医療費・薬代
- 往診や臨時の対応
- 検査
- 処置
- 指導
- 院外薬局での薬代
- など
にかかるお金
- 訪問看護
- 訪問介護
- 訪問リハビリ
- 訪問入浴介護
- 居宅療養管理指導
- デイサービス
- ショートステイ
- 福祉器具レンタル
- など
介護の内容によって
必要となるもの
- 自費診療
- 食費、栄養剤費
- リフォーム代
- 消耗品費
- 光熱費
- など
- 医療保険の対象
- 介護保険の対象
つまり、医療費に加えて介護費用が必要になるのです。
そして、医療保険、介護保険、各種制度によって、これらの費用が高額になりすぎないようにする仕組みが用意されています。
訪問診療代と医療費・薬代
医療費や薬代については、通院・入院のときと同じように医療保険が適用されます。
負担割合も変わらず、75歳以上は1割*、70~74歳は2割*、70歳未満は3割です。
また、月の負担が一定額(自己負担限度額)を超えた場合に、申請すればあとで払い戻される「高額療養費制度」というものが用意されています。
*現役並み所得者は3割
支払額(負担額)は診療内容や年齢によって異なりますが、
1割負担の人で月2回の定期訪問診療の場合
訪問診療代は月5,000円~12,000円くらいです(その他費用は含まず)。
薬代は、使用している薬の種類によってかなり異なるので、医師や薬局に相談してください。
自己負担限度額は、70歳以上の一般所得者の場合、月18,000円です。
参考)岡山市の高額療養費(自己負担限度額)
介護サービスにかかるお金
介護サービスは、在宅医療をしているほとんどの家庭で利用されています。
介護サービスは介護保険で受けられます。
要介護認定を受け、そのレベルにより支給限度額や受けられるサービス内容が決まります。
支給限度額は、
最も軽度の要支援1で月50,030円
最も重度の要介護5なら月360,650円
*岡山市の場合
その範囲内であれば、利用者は原則1割(年齢や所得に応じて2~3割)の自己負担額で利用できます。
支給限度額を超えてサービスを受けた場合は、超えた分は全額自費になります。
参考)岡山市の介護保険パンフレット
参考)岡山市の介護保険サービス利用時の負担割合について
ただし、介護にも「高額介護サービス費」という自己負担限度額の制度が設けられており、申請すれば後で払い戻されます。例えば、市民税課税世帯の人は月44,400円です。
参考)岡山市の高額介護サービス費の支給について
介護サービスには、訪問看護やショートステイ、入浴介護など、いろんなサービスがあります。
その他にも、自治代により介護保険の助成制度が設けられている場合もあるので、
どのサービスを受けるか、ケアマネジャーとよく相談してください。
その他、介護の内容によって必要になるもの
その他に介護の内容によって必要になるものの例として、
- 紙オムツなどの消耗品費
- 医療機器にかかるレンタル代や光熱費
- 普通の食事が取れない場合の栄養剤
- など
が考えられます。
それから、在宅医療を始める前に、自宅を介護しやすい環境に整える費用も必要ですよね。
ここでも介護保険が使えます。
ベッドや車いすなどの福祉器具のレンタルや購入
介護認定のレベルによってレンタルできる器具が決められています。
購入の場合は1年間で10万円まで支給されます。
介護リフォーム代(住宅改修費)
上限20万円までの工事に対して補助金が支給されます。
どちらも、他の介護保険サービスの支給限度額には含まれません。
参考)岡山市 福祉器具の購入や住宅改修費
参考)岡山市 福祉器具レンタルの助成
在宅医療にかかる費用は、患者さんの状態によってかなり変わりますが、通院よりは高く入院よりは安くつく場合が多いです。
各種保険が適用されるので、うまく制度を組み合わせて負担を減らしましょう。
医療と介護の両方のサービスを利用している世帯の負担を軽減するために、高額医療と高額介護の合算制度というものもあったりします。
詳しい内容は自治体の相談窓口や医療ソーシャルワーカー、ケアマネジャーに相談してください。
3.在宅医療を受けられる条件は?
一人で医療機関への通院が困難な方は、在宅医療を受けることが可能です。
特定の病気や、重症であるなどは関係ありません。
一人で通院できる方は、在宅医療を希望しても、保険診療で在宅医療を行うことはできません。
4.在宅医療クリニックはどうやって選べばいいの?
これから長いお付き合いになる医療機関ですから、「ご本人に合ったクリニック」を選びたいですよね。
様々な判断基準があると思いますが、例えば以下のような条件を満たしているクリニックが良いのではないでしょうか。
近い
訪問診療を行えるエリアは、医療機関から16km以内の範囲と決まっています。
移動時間で言うと片道20分の範囲内が基準。
万一の往診の際にも、近い方が早く来てくれます。
実績や専門性
在宅医療を始めるときに要相談です。
同じ病気の診療実績があるかなど、目的に合ったクリニックを紹介してもらいましょう。
対応してもらえる時間
24時間365日対応のクリニックが増えてきていますが、対応していないクリニックもあります。
対応していない場合は、どこのクリニックに連絡すればよいのかを事前に取り決めておきましょう。
また、緊急時に専門性の高い病院を紹介してもらえるかも確認しておきましょう。
医師との相性
一番大切かもしれません。
医師と患者の関係といえど、人間同士、相性があるので、そこは正直にいきましょう。
病は気からと言います。気持ちよく治療を受けることも大切です。
いろいろ条件を調べるのが大変 !
と思われる人は「在宅療養支援診療所」を探してみてはいかがでしょうか。
在宅療養支援診療所
- 24時間365日対応
- 緊急時に連携する保険医療機関で検査・入院時のベッドを確保
- 在宅療養について適切な診療記録が管理される
- 地域の介護・福祉サービス事業所と連携
在宅療養支援診療所にかかれば、自分で医師やクリニックを探したり、いろんな事業者と連絡を取り合ったりしなくても、在宅療養支援診療所が対応してくれます。
みなさん、このような基準を参考に、納得できる在宅医療クリニックを探してください。
さて、ここまでで日々の生活のサポート体制や介護環境の準備、費用について、クリニックの選び方、と説明してきましたが、少しは不安が解消されたでしょうか?
でも待ってください、まだ大切なことを、確認していません。
5.在宅医療を始める前に確認しておくこと
ここまで在宅医療を検討している人を励ますような説明をしてきましたが、
ここで一旦立ち止まって大切なことを確認したいと思います。
ご本人とご家族の気持ち
在宅医療はご家族の協力の上で、ご本人の自宅にいたいという気持ちを実現させるためのものです。
ご家族が無理をして生活に支障がでたり体調を壊されると、在宅医療が成り立たなくなる場合が少なくありません。
ご家族の健康があってこそなのです。
それに、ご家族が辛い様子だと、ご本人は責任を感じてしまうでしょう。
どうしても不安が残って決心がつかないのなら、身近な医療関係者にどんどん相談してください。
不安な気持ちをぶつけてください。解決策はきっとあります。
そうして、家族で助け合っていこうと思われるなら、在宅医療は家族の絆を深めるものになると思います。
スタートは「ご本人の希望を叶えてあげたい」で、やってみてダメなら次の手を考えてみるのもありです。
医師・看護師・ケアマネジャー・ソーシャルワーカーなど、相談にのってくれる人はたくさんいます。
在宅医療の目的
在宅医療の目的をはっきりさせておきましょう。
”医療”の目的が、
- 回復なのか
- 現状維持なのか
- または看取りまでのサポートなのか
本人、家族、医師、看護師などの間で共有しておきましょう。
目的によって在宅医療プランが変わってきます。
さて、ここまで読んでいただき、
「よし ! 在宅医療をやってみよう」と思われる方へ、在宅医療を始める手続きを説明します。
6.在宅医療を始める手続き
在宅医療を始めるための手続きを簡単に説明します。
-
1.在宅主治医を選ぶ
現在かかっている医師に相談して紹介してもらう。
入院中の方は病院の地域医療連携室を訪ね医療ソーシャルワーカーにアドバイスをもらう。 -
2.介護保険の準備
介護保険は、誰でもすぐに利用できるわけではありません。
市区町村に要介護認定の申請を行います。認定まで1ヵ月ほどかかります。 -
3.ケアマネジャーを選び、ケアプランを作成
ケアマネジャーと相談してケアプラン(介護サービスの計画書)を作る。
ケアマネジャーとは長い付き合いになります。自分に合う人を選んでください。 -
4.在宅主治医と病院の連携
病院へ依頼し、在宅主治医へ患者情報、診療情報提供書を作成してもらいましょう。
在宅医療の関係者で打ち合わせを行い、医療方針や計画、訪問日時などを決めます。 - 5.在宅医療スタート
在宅主治医選びと介護保険の準備をすることが第一歩です。
そして大切なのがケアマネジャー選びです。
困ったことがあれば最初に相談する、頼れるパートナーです。
自宅に近い、フットワークが軽い、親身になってくれる、情報を多く持っているなど、自分に合う人を見つけてください。
7.さいごに
私たちは、楽しかった旅行でも帰宅すると「あ~、やっぱり自宅が一番いいな」と言ってしまいますよね。
入院生活なら、なおさら「自宅に居たい」と思うのはあたりまえではないでしょうか。
しかし、在宅医療となると、介護を自分ができるのか、負担が大きいのではないかと不安に感じる人が多いと思います。
けれども、その不安をサポートする仕組みやサービスはたくさんあります。
私が担当しているご家族も、最初は本当にできるか戸惑っていても、きちんと説明を聞くと
「それならできるかも…」
と思って在宅医療を始められ、そして思っていた以上にできているケースが多いです。
マイナス面にのみ目を向けず、その問題を解決する方法を探してください。
医師・看護師・ケアマネジャー、相談先もたくさんあります。どんどん利用してください。
自宅という特別な空間で、家族と共有できる時間はかけがえのないものです。
家族で素敵な時間を過ごせるよう、しっかり知識を蓄え準備しましょう!
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